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赤っ恥の安倍外交

米国とイランの“仲介役”を演じそこなった安倍首相

安倍首相が日本のトップとして41年ぶりにイランを訪問し最高指導者・ハメネイ師ロウハニ大統領と会談した。

その目的が、イランとの長年にわたる友好関係を確認しあうためなら、あえて何も言うことはない。

2017年9月、国連総会のおりロウハニ大統領と会談し意気投合した安倍首相は、イラン訪問のタイミングをはかってきた。トランプ大統領が、オバマ前大統領の外交成果である「イラン核合意」からの離脱を宣言しなければ、昨年7月にはイランを訪問することになっていたのだ。

しかし、多くの日本のメディアが喧伝したように、軍事的緊張が高まるアメリカとイランの仲介役をつとめるということなら今回の訪問は失敗だったといえるだろう。

ハメネイ師との会談後、取材に応じた安倍首相はこう語ったという。

「先般、トランプ氏からは事態のエスカレートは望んでいないとの旨の発言があり…ハメネイ師に率直にお話をいたしました。…ハメネイ師と直接お目にかかり、平和への信念をうかがうことができました。…核兵器を製造も保有も使用もしないその意図はないするべきではないとの発言がありました」(6月13日産経ニュース)

この発言からは、トランプ氏が武力衝突を望んでいないと伝えたところ、ハメネイ師も平和を求め核兵器をつくらないと答えたように聞こえる

しかし、イラン側の捉え方はまったく違う。ロイター通信は次のようにイランメディアの報道を伝えた。

[ロンドン13日 ロイター]イランの最高指導者ハメネイ師は…安倍首相に対し、イランは米国と交渉するという「苦い経験」を繰り返さないと述べた。イランのファルス通信が伝えた。

安倍首相はトランプ米大統領からイラン指導部へのメッセージを預かっていたが、ハメネイ師は「トランプとメッセージを交換する価値はない」と述べた。ハメネイ師は、イランの体制変更を求めないというトランプ大統領の約束は「うそ」だとも発言。(中略)

安倍首相に対し「米大統領は日米首脳会談でイランについて議論した後にイランの石油化学セクターに制裁を課した。これが誠実さのメッセージなのか」とした上で、「日本はアジアの重要な国だ。イランとの関係拡大を望むなら、他の国々と同様に断固とした姿勢を取るべき」と述べた。

トランプ氏との交渉を完全に拒否したハメネイ師の姿が浮かび上がる。トランプに追従する安倍首相に対して厳しい言葉を浴びせたのも衝撃的だ。

ハメネイ師サイドから見れば、安倍首相が本気で“仲介役”を引き受けたのなら、まずはトランプ氏に解決のための一策を示し了解を得たうえでイランに来るべきだと思うだろう。強硬姿勢を変えないトランプ氏の主張を一方的に持ち込んで、交渉のテーブルにつけと言われても、話はこじれるばかりだ

おそらく、明確に“仲介役”と日本のメディアが囃し立てはじめたのは、来日したトランプ大統領の発言がきっかけだろう。

トランプ米大統領は27日午前、日米首脳会談の冒頭、安倍晋三首相からイラン訪問の意向を伝え聞いたことを明らかにした上で「首相はイランの指導者と非常に密接な関係にある。どうなるか見極めたい」と述べ、核問題で対立する米国とイランの仲介役としての首相の役割に期待感を示した。
(5月27日産経ニュース)

トランプ氏の「どうなるか見極めたい」が、記事の執筆者によって「仲介役として期待しているという意味に置き換えられている。6月5日の日経新聞には以下のような記事が掲載された。

(イラン)訪問は5月25~28日にトランプ米大統領が来日した時に固まった。5月26日夜、東京・六本木の炉端焼き店での首相とトランプ氏の夕食会。トランプ氏が首相に「ところでイラン情勢のことだが…」と切り出した。「日本とイランとの友好関係は知っている。シンゾウがイランに行くつもりなら急いで行ってきてほしい。私は軍事衝突を好まない」。

こちらは、トランプ大統領が安倍首相に仲介役を依頼したかのような書き方だ。酒の席における首脳どうしのこんな会話を誰がリークするのだろうか。ただし、首脳会談冒頭の公式なトランプ発言をもとに作文してもクレームが出ない程度の内容ではある。

海外メディアで、「仲介」と位置づけて安倍首相のイラン訪問を報じたところもごく少数はあったが、仲介役フィーバーに酔っていたのはもっぱら日本メディアと安倍応援団とされる識者たちである。

ジャーナリスト、長谷川幸洋氏は「日本外交は新たな次元へ」と題し以下のように書いた。

「ついに、ここまで来たか」と思った。…先日の日米首脳会談だ。…私がもっとも感慨深く受け止めたのは、日本が「米国とイランの仲介者」になった点である。…これまで日本は国際社会で仲介者のような立場に立つのは、極めてまれだった。…それが、安倍晋三政権の下でようやく実現した。…まさしく安倍・トランプ関係の親密さゆえだ。首脳同士が信頼し合っているからこそ、日本は米国に意見も助言もできる。だから、イランが頼りにして、トランプ氏も首相の調整に委ねたのである。
(現代ビジネス)

イランからもトランプ氏からも頼りにされている安倍首相がいよいよ歴史的な外交成果をあげる時が来ると言わんばかりだ。これほど喜びが素直にあふれ出た論評も珍しい。

ニッポン放送の番組に出演した数量政策学者の高橋洋一氏も「日本が外交でこんなに出たことはないから、外交関係者は驚いているのではないでしょうか」と、期待感をにじませた。

しかし、現実はどうだろうか。仲介を頼んだとされるトランプ氏が、安倍首相とイラン首脳の会談の成り行きをかたずをのんで見守っていたのなら、イラン訪問中に追加制裁の決定などしないはずだ。

イラン訪問のさなかに起きたタンカー襲撃について、あれほど迅速にイランの仕業と決めつける発表をホワイトハウスがしたところを見ても、安倍首相の尽力に期待する風は微塵もない

そもそも、外務省、官邸ともに、安倍首相のイラン訪問で緊張が鎮まるとは誰も思っていなかったのではないか。

欧米メディアは概ね、安倍外交に無関心だったといえるが、なかには次のような記事を掲載した新聞もあった。

【ワシントン共同】米紙ウォールストリート・ジャーナルは14日、安倍晋三首相のイラン訪問中に日本のタンカーが攻撃を受けたことに絡み「中東和平における初心者プレーヤーが痛みを伴う教訓を得た」との見出しで報じた。…同紙は、タンカー攻撃で緊張が高まる中東情勢を踏まえ「日本の指導者による41年ぶりの訪問を終え、米国とイランの対立関係は以前より不安定になった」と論評。

なんとも冷ややかな見方だが、安倍首相の帰国後、アメリカとイランの緊張がいっそう高まっているのは事実だ。

米国はタンカー襲撃をイランの犯行と決めつけ、米軍1,000人の増派を発表した。これに対しイランは、低濃縮ウランの増産で核合意履行の一部停止をさらに進める構えをみせている。

イスラエルロビーの影響なのかどうか、理解できないトランプ大統領の核合意離脱と、それにともなう経済制裁。イランがミサイル発射実験を続けていることや、革命防衛隊の活動がイスラエルやサウジアラビアの脅威となっていることなど、核合意のアラを探せばいくらでもあるが、少なくとも現実的な平和維持策であるのは確かだろう。

オバマ氏がまとめたから気に食わないと言わんばかりの独断的な合意離脱に、米国以外の核合意当事国である英仏独ロ中の各国は反発しただろうが、具体的な対応策を示していないのも事実だ。

テヘラン大学のモハマド・マランディ教授は言う。「日本は原油の輸入を停止し、トランプ政権に従った行動をとっている。日本にできることは、アメリカに対して核合意に復帰し約束を守るよう説得することだ」(NHKニュースウエブより)。

これがイランの日本に求めることだったはずである。だからこそ、ザリーフ外相が6月12日からイランとの友好関係を維持してきたトルクメニスタン、インドとともに日本を歴訪したのであろう。とくに安倍首相にはトランプ氏を説得するよう強く要請したに違いない。

ところが安倍首相は、トランプ氏にイラン訪問のお伺いを立てて了解をとっただけで、突っ込んだ話し合いなどできないままハメネイ師らに会ったとみえる。とどのつまり、合意の履行停止を進めようとするイラン側に自重するよう求めただけに終わったのだろう。これではとても“仲介役”とはいえない。

真夏の国政選挙目前で外交力を見せつけたいという安倍首相の思惑は見事に外れた。むろん、これでも安倍首相が国際舞台の主役級プレーヤーになったと喜ぶのは自由である。



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